地方都市で、中古車を販売する彼は2代目だった。
その会社は、先代の父が創業した会社だ。

父は、大変な働き者で
戦後の焼け跡の中で闇屋から始めた人だった。

父は、少し資金ができると、
次は、時代に合わせ様々な事業を始めて儲けた。
そして、その事業が成熟期に入る頃には売り、
時代を先読みしながら成長し、
資産を作り上げ、土地の名士となった。

父は、誰からも好かれる豪放で明るい性格だった。
好かれる理由は、性格だけのせいだけではない。
いつも「誰かのために」を考える人だった。

顧客や社員だけでなく、
周りに困る人あれば、躊躇せず援助した。

おかげで盆暮れになると、
様々な職業や年齢の人たちが、
あちらこちらからの地域から挨拶に訪れていた。
「昔助けていただいたお礼に」と。

2代目の社長は、そんな父親を見て育った。というか、
見て育ったはずだった。
だが、彼の方向性は違った。

大学生になって、大都会へ出る頃には
「俺は社長の息子だ。」と
誰かれなく言い放つようになっていた。

その理由は今もからない。

大学を卒業したのち、しばらくは
東京の会社に勤めてはいたが、
30歳を迎える頃、故郷に戻ることになった。

父の具合が悪くなったからだ。

彼は跡継ぎとして、「俺が!」と
意気込んだ。そして、
とにかく父の真似をしていったのだ。

豪放且つ快活、リーダーとして
大胆にふるまおうとした。

偉大な父の影を追うのに必死だったのだ。
とにかく父の真似をしようとしたのだ。

従業員数が500名ほどになったその社屋を
社長室まで歩く間、出会う従業員たち全てに声をかけた。
父のように。

「〇〇君、おはよう!元気か?」
「仕事はどうか?」と。
実に大きな声で声をかけていった。

「はい、社長!おはようございます。」
その返事が実に心地よかった。
『よし、俺は親父と同じだ。』
心の中でいつもそう思っていた。

だが彼は肝心なことを忘れていた。

そして、父と比べ、圧倒的に足りないものがあった。
それは何か?続きはまた明日ね。
jenga